【 平成18年 6月12日15:00 】

医療活動状況
6月10日 57名
6月11日 後日報告

6月10日 主な診療内容

本日から外科的処置は我々の指導の下、地元のナースや看護学生に行ってもらうこととなった。

現在日本では創傷治療に対し密封閉鎖療法が主流になりつつある。
この流れを受けて開放創は洗浄し、消毒剤の塗布はせず、フィルムなどを用いてできるだけ湿潤環境を保つという方法を用いた。

当初はなぜ消毒薬を塗らないのか?ガーゼはいらないのかといった疑問が見受けられたが、継続して創傷の治癒過程を観察するにつれて、その意義が理解されたようであった。

⇒ 災害医療では「本来その地域にあったレベル以上の医療は行うべきではない」という原則に照らし合わせると 議論の余地もあるかもしれないが、特にコストをかけることなく簡単な方法で湿潤環境の維持をすることにより、 創傷治癒機転が働くことを理解してもらえたのは結果として良かったと思っている。

*初期外傷でトラブルの比較的少ない症例はそろそろ抜糸、治療終了の時期。

*陰嚢水腫や鼠径ヘルニアなど、震災とは全く無関係な患者のコンサルトもみられた。
近傍の病院で手術を受けた鼠径ヘルニアの術後2日目が入院。

*今日のクリニックは朝から乳幼児を連れた母親たちが長蛇の列をなしていた。
これらの患者は我々にコンサルトされることはなく、地元のナースや看護学生がフル稼働していた。
今日は小児科医による定期乳幼児検診の日であった。

写真1

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写真2

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写真-1:今後クリニックを引き継ぐアグン先生(右から2番目)
インドネシア空軍病院の外科医Agung Maryanto, Sp.B
(Sp.Bとは一般外科専門医の意味)

写真-2:巡回診療で湿布をねだられる宮坂薬剤師

*ベッドサイドカンファレンスの様な形で、彼とクリニックの理事長・タバナンチーム・ TMATチームで入院患者の引き継ぎと手術が必要な患者の転送手配を行い、彼を含めた地元医による12日以降の診療体制を確認した。

地域の医療状況

確かに今後長期にわたるフォローアップが必要な患者や、瓦礫の片づけで新たな外傷を負う患者は存在する。本日の地域の巡回視察の途上、當麻医師らは震災当初に大腿骨骨折の手術をされて以来一度もフォローアップを受けていない患者の移送に立ち会い、ずっと留置されっぱなしだったドレーンを抜去することとなった。このことに象徴されるように全例に初期治療のフォローアップが十分になされているとは到底言い難いが、総合的には少なくとも災害医療の急性期は脱したと言えよう。 復興支援という意味ではまだまだ助けが必要ではあろうが、TMAT本部が判断した今回の医療支援の撤収時期は適切であったというのが現場の意見である。

午後、現地の新聞が伝えたところによると破傷風ですでに4名が死亡、20名が罹患しているとのこと。

6月11日 主な診療内容

下腿の解放骨折で創外固定(レジン使用)を受けているが、骨折部が完全に露出し、骨断端が壊死に陥っている女性。化膿性骨髄炎でいつ重症化してもおかしくない。洗浄、抗生剤点滴で入院とした。

*実質の診療は今日が最終日です。

後片付けのことも気になりながら診療を開始すると日曜日にもかかわらずかなりの繁盛ぶり。通訳のWinda嬢によると口コミで今日が我々の診療の最終日だと噂が流れているからだという。

主な出来事

現地時間午後4時(日本時間6時)に大阪のローカルFM局 kokoroから電話取材を受ける。 ジョグジャカルタの医学部教授の義兄が大阪在住でこの関連で紹介があったものと推測される。内容を要約すると、

今の医療状況の報告(急性期は過ぎたがフォローアップが不十分。精神的ケアの必要性)
何が一番必要か?(医療資材は足りている。現地の医療は復興しつつある。住宅再建が最優先課題)
何かメッセージを(国内外のボランティア、NPOの横のつながりを緊密にして援助体制を構築すべき)

お別れ式

夜7時よりフェアウェルパーティがクリニックの裏手のテントで行われた。 理事長のMCにより我々に挨拶の機会が与えられ、これまでの活動機会を与えていただいた感謝と、 一日も早い復興を願うとともに今後のTMATに日本・タバナンに加えジョグジャカルタをメンバーに迎えたい旨の挨拶をさせていただいた。

清水隊長より
かくして今回のTMATの災害支援活動は撤収となったが、同じ震災を経験した国民の一人の人間として今後も間接的な支援を継続し、一日も早い復興をただひたすらに願うのみである。
最後に、後方支援に奔走してくれたTMATメンバーと、留守を預かっていただいた各病院の職員各位に敬意を表したい。
以上をもって現地報告を終了とする。

 

明日12日は早朝7時にクリニックを経ち、フライトまでの時間を利用してボルブドゥール遺跡を見学した後にデンパサール経由で帰国予定。

6月13日
GA880便 8:50成田着で、全員帰国、成田空港での活動報告の後、帰院致します。

事務局より現地での活動は、6月11日にて終了致しました。
後日、活動検討会を行い、今回の活動を振り返ります。

(現地報告 隊長 札幌徳洲会病院 清水 徹郎)
(文責 事務局 ㈱徳洲会 吉 紀三)